2015-01-21 Wed 18:38
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「 古城の内 」
古城に私を呼び寄せてほしい。 そこには万人が守ることを暗黙に了解された、赤子のような尊厳だけがあり、 ほかには花も、汗も、およそ人の生涯を彩る苦楽の一切が匂わない、そんな古城がいい。 城の門から内へは、私は裸足で行く。 荒い目の石畳を踏んで、重い扉に掌を触れれば、 聞き覚えのある優しい音をたてて、中から緞帳が手繰られるように、きっとそれは開くのだ。 広間の遥か高い窓から、一日の慰めに陽が零れ落ちていて、 時折そこを鳥の影が軽やかに横切るだけの、空気さえ眠る城の中で、 私はほとんど生まれて初めて、踊るということがしたい。 冠を戴く静寂と、彼を訪れた私の間に成立する、僅かに礼節を欠いた愛情表現。 言葉と音楽を排して、思考を土へ返し、緩やかに弧や波を描くだけの肉体からは、 私達にしか分からない交感が、ひっそりと生じるだろう。 野の花の香りくらい、それは微かであってもいい。 踏みしめる床の冷たさや、木の棘を掴む時の痛みのようなものを、汲み取れるだけの深さがあれば。 汲み取ったものが、永遠に私の血の一滴であり続くに足る濃度さえあれば。 スポンサーサイト
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